5.日曜日は遠足へ


 あっという間に日曜日になった。
 あっという間に待ち合わせ場所について、電車に乗って、目的地に着いた。
 計画通りだ。

 この間のように、小賢しいユサ+マイペース2匹を相手にするのは分が悪いが、今回ユサは留守番である。
 桃園&伊藤、マイペース2匹にできるだけ無駄口をたたかせずに、てきぱきと行動することで無駄のない移動が可能になると踏んだ俺の狙いは正しかったぜ。
 そうでなければ、夕方になっても出発できず、俺は先日の視聴覚室のように存在自体が無駄な努力とばかりに真っ白になっていただろう。恐ろしい。
 もちろん今後の方針や手がかりについても、電車の中で伊藤本人から聞き出そうなどというバカなことは考えなかった。

 死んだ時に脳みその大部分を紛失したせいか、もともと容量不足なのかはっきりしないが、伊藤はバカだ。電車の中で延々40分間桃井が伊藤から聞き出したのは、はっきりいってどうでもいいようなおのろけばかりだ。それも、伊藤は本当の本当に片思いだったらしく、総括してしまえば伊藤が物陰から久住さんをのぞき見する話ばかりだ。もうお前は死んでしまえ。
 いや、実際にはもう死んでいる伊藤君だが、彼は電車から降りるなり「ずっと座っているだけというのも肩がこりますねぇ」といい、首の骨をぽきぽきならしやがったのだ。お前に幽霊としての自覚とか誇りとか、とにかく何でもいいからなにかないのかと問いたい。まいこもまいこだ。幽霊の肩を揉んでいる。

 ともかくここまでの事例だけでも、実行力として役立つ人員が、俺一人であることをお分かりいただけただろう。
 自分を救えるのは自分だけだ。
 降り立った駅で、俺は自分自身に小さく拳でファイトを贈った。

 さて、早見町にきたのは久住さんとやらを探し出すためなのだが、ここで伊藤自身が「久住」が珍しい名字なのを理由に電話帳を使って探そうと、幽霊の割にはアナログな提案をした。
 しかし、その案はいただけない。
 確かに電話帳に該当者はそう多くはないだろうが、それでも十数件は下らないだろう。だいたいそれら一軒一軒に電話をかけて、一体なんて聞くのか?


――あ、もしもし。私少々人探しをしておりまして……ご協力いただいてもいいですか?


――もしかしてと思うんですけど、お宅に髪の長い小柄な中高生くらいのお嬢さんがいませんですかね?

――多分伊藤の野郎のことですからそれなりに美人だと思うんですけど……

――え?私?

――いえいえ、私は別に怪しいものじゃございません。

――すでに亡くなった伊藤という学生の初恋の人を探しているただの高校生です……


 …笑止どころか、このご時世、間違いなく警察に通報されます。本当にありがとうございました。
 姿が見えなきゃそれが本当に久住さんか伊藤にも確認できないし、そもそも電話帳に載せてない家庭だってある。
 ここで、まいこが挙手。

「はーい!私は伊藤君と久住さんの思い出の場所を回ってみるのがいいと思うな~!」
「おお!それはナイスなアイデアですね!」

 すかさず賛同する伊藤。

「お前らの話は聞いてない。しかもそれは思い出の場所じゃなくて、単なるストーキング現場だ」

 話を戻そう。
 では、どうやって久住さんを見つけるか?
 ヒントは、伊藤のだいぶ鮮明になった姿にある。
 浄化したはずの伊藤が戻ってきて一週間ほどたつが、なぜか彼は視認できる霊体が日に日にはっきりしてくるのだ。最初こそただのチリの塊のようだったが、今では容姿だけでなく、黒い詰襟の学ランもはっきり見て取れるのだ。

 …早見町にある中学高校で、詰襟の学ランは2校のみ。
 一つは目の覚めるようなスカイブルーだが、もう一つはもちろん硬派な黒、である。

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